追放された聖女はもふもふとスローライフを楽しみたい!~私が真の聖女だったようですがもう知りません!~
伝令役との会話が終わらないうちに、シリルは魔王城の救護室へ駆け出した。

「嘘だ、嘘だ……! 父上やエマが死んだなんて!」

大きな音を立てて、救護室の扉を開く。

だがすでに、フレディオやエマは息を引き取ったあとだった。

「嘘だ……」

彼らは物言わぬ亡骸として寝台に横たわっている。二人の顔はまるで、眠っているかのように穏やかだ。

――世界から全ての音が消えた気がした。

「なんで、どうして……父上、エマまで」

父が倒れたのなら、自分が魔王として勇者や聖女に立ち向かうべきだった。

シリルが先頭に立つべきだったのに、王族とは無関係で、たまたまモフィーニアに滞在していた異世界人のエマが犠牲になるなんて。

大好きだった相手、将来の伴侶に望んでいた大切な女性を……シリルは知らぬ間に自分の身代わりにしてしまった。その衝撃はシリルの心を激しく苛む。

「エマ、エマッ!!」

冷たくなったエマの亡骸に、シリルはすがりついた。

「全部、僕が無力なせいだ……」

歪んだ視界の先に、なんとか戦いを生き延びたアルフィが立っている。彼の顔もまた苦しげに歪んでいた。
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