追放された聖女はもふもふとスローライフを楽しみたい!~私が真の聖女だったようですがもう知りません!~
ふらつきながら部屋を出ると、磨かれた窓に血まみれの自分の顔が写っていた。

逃げるように廊下をあとにすると、後ろから朗らかな家族の会話が聞こえてくる。

ぐっと涙をこらえ、掃除道具を取りに向かった。

逃げ出したいけれど、貴族に生まれた義務を放り出すのはいけないことだ。

それに家を出たところで、どんどん貧しくなっていくこの国で、身元不詳の女性が働けるまともな職場なんてない。

なんとか任せられた仕事を済ませると、午後になっていた。

「いけない。殿下が来られるのだった。急がなきゃ……!」

殿下というのは、この国の第二王子フィリペのことだ。

彼は生まれたときに決められた私の婚約者で、そのことをずっと嫌がっている。

――気持ちはわかるけれどね、私も同じだから。

妹のリマはそんな彼にご執心で、フィリペが来ると、私のいる前でやたらと彼にベタベタと接するのだ。フィリペもまんざらではないようで、リマのことをとても可愛がっていた。

そのうち、私との婚約は解消され、妹が彼と結ばれるのではないかと思う。

ただでさえ肩身の狭い私に、新たに「婚約破棄された女」という肩書きが増えるのだ。

――今さら不名誉な称号が一つ増えたところで気にしないわ。
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