翠玉の監察医 アイネクライネ
一 手紙
世界法医学研究所の監察医、神楽蘭(かぐららん)は今日もメスを手に遺体と向き合っていた。その様子を、隣で探偵の深森圭介(ふかもりけいすけ)が見つめている。

アメリカで過ごし始めて早一ヶ月。蘭と圭介はアメリカにある世界法医学研究所で働いているだけの日々だ。ーーー圭介にとっては。

解剖が終わり、休憩時間になった。監察医たちや圭介が話しながらお昼を食べる中、蘭はそっと部屋を抜け出し、人気のない場所へと向かった。

誰もいない暗い部屋の中、蘭はポケットから紙を取り出す。裏切り者であり、蘭の大切な人である三国星夜(みくにせいや)の居場所を知っているアーサー・スチュアートから数日前にもらったものだ。

アーサーとその仲間に襲われた時、圭介は気絶させられ、蘭だけがアーサーと話したのだ。

「明日の夜、ここに来い」

紙には住所と時間帯が書かれている。おそらくアーサーと仲間が待っているのだろう。とても危険だ。無事でいられるかどうかわからない。
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