翠玉の監察医 アイネクライネ
子どもたちを見れば、恐怖で動けなくなっている子どもがいた。その子どもに狙いを定めた男は高笑いをしながら子どもに向かって走っていった。

蘭の頭にあの時の光景が浮かぶ。目の前で仲間が死んでいったあの時のことが。体が震え、今すぐにでも走っていきたくなる。命がこれ以上奪われるのは耐えられない。

「一人で戦うなんて無茶ですよ、神楽さん」

そんな声が聞こえた。刹那、ナイフを持った男の前に竹刀を手にした人影が現れる。その人物は竹刀で相手の手首を叩き、相手が痛がっている隙に相手を蹴り上げた。

「深森さん……」

そこにいたのは、睡眠薬を飲ませたはずの圭介だった。蘭は驚きを隠せない。

「どうして……」

蘭が訊ねると圭介は「まずはこの子たちを逃がしてからです」と言い、動かない子どもに手を差し伸べる。子どもは体を震わせながらゆっくりと動き出した。

「もう大丈夫だからね」

校門の外に出て圭介がそう言った刹那、子どもたちは肩を震わせて泣き始める。圭介は子どもたちを抱き締め、ひたすら「大丈夫だよ」と言っていた。

「深森さん……」

彼がいなければ、誰かを死なせてしまうところだった。蘭はエメラルドのブローチを握り締め、子どもたちを抱き締める圭介を見つめる。彼が来てくれてよかったと思っていた。
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