翠玉の監察医 アイネクライネ
アーサーにそう言われ、蘭の手が力を失っていく。その時、蘭のお腹に衝撃が走った。アーサーに殴られたのだ。その場に倒れそうになると、さらにお腹を蹴られ、蘭の体は転がっていく。

「あっ……」

蘭の胸元から外れたブローチがアーサーの手に渡った。アーサーは月明かりにブローチを透かし、エメラルドの美しさをうっとりと見つめている。

「返してください!それは、星夜さんからいただいた大切なブローチです」

蘭が立ち上がってそう言うと、アーサーは「知ってる。でも、星夜は大切に育てたお前が人殺しだって知ったらショックを受けるだろうよ」と蘭を見て笑った。

「わかっています。星夜さんに何と言われてもいいよう、覚悟はしております」

蘭はアーサーを見つめ、スカートを握り締める。傷付く覚悟がなければ動けない。嫌でも覚悟をするしかなかったのだ。そうしなければ、永遠に星夜と会えなくなるかもしれない。そっちの方が、蘭にとって耐え難いものだった。
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