翠玉の監察医 アイネクライネ
「どうして、涙が止まらないのですか?」

こぼれていく涙を、蘭は拭うこともせずに見つめる。汚れきった自分でも涙はこんなに美しいのだと感じてしまった。

涙はまるで雨のように降り続けていく。その雨は書いている途中である手紙にも降り注いだ。所々インクが滲み、文字が潰れていってしまう。

「神楽さ〜ん!どちらにいますか〜?」

泣き続ける蘭の耳に、圭介の呼ぶ声が聞こえてくる。蘭は慌てて涙をハンカチで拭い、書きかけの手帳をポケットに突っ込む。そして無理やり顔を無表情にし、ドアを開けた。

「深森さん、どうしましたか?」

「ああ、この部屋にいたんですね。マクフライさんが呼んでますよ」

「そうですか。教えていただき、ありがとうございます」

蘭はペコリとお辞儀をし、圭介の横を通り過ぎていく。圭介の顔色は変わっていなかったため、泣いていたことはバレていないだろう。蘭はホッとし、息を吐く。

午後からも解剖があったものの、蘭はいつも通り過ごすことができた。アーサーからの手紙や遺書などは誰にもバレていない。
< 5 / 41 >

この作品をシェア

pagetop