獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
「なに。俺も酒が入って、少々口が過ぎたようだ。お前と飲む酒はうまく、まるで共に各地を旅していた当時のような気分で、すっかり互いの上に流れた年月を忘れていたさ」
 ここでガブリエルは一旦言葉を途切れさせ、満天の星々から俺へと目線を戻す。そうしてゆっくりと、口を開いた。
「俺にとってもお前は大切な友だ。しかしかつて共に旅をしていた頃とは、互いの立場も大きく変わった。俺もお前も、今は守るべきものが多い。昔のままの友達ごっこをしていては、一国がゆく道を誤るやもしれん。……マクシミリアン、アンジュバーン王国の未来について冷静な判断を下すため、今回の滞在中にお前と非公式の酒を酌み交わすのはこれが最後だ」
 理性の部分では、正論と分かっていた。しかし、交友にひとつの区切りをつけられてしまったようで一抹の寂しさは禁じ得ない。
 俺はずっと、皇宮という閉ざされた世界の中で、耳なしの十字架を背負い孤独の道を歩んできた。一時飛び出した外の世界は、そんな俺に自由と心許せる友を与えてくれた。
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