獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 俺の言にガブリエルはヒョイと肩をそびやかし、白い歯を見せる。その目から先ほどの険は感じなかった。
「おかしなことだ、俺はいつだって実現可能と思うことしか言わん。では、また明日に」
 ヴィヴィアンを深く腕に抱き直すと、手酌で杯に酒を注ぎだすガブリエルを残してテラスを後にした。

 ヴィヴィアンには使用人棟ではなく、俺の居室と同じ区画に部屋を与えていた。扉の前で足を止めると、意識を失った彼を片腕に抱え、空いた手でドアハンドルを引いた。
 ヴィヴィアンは体温が上がっているようで、顔だけでなくシャツから覗く首もとまで桃色に染まっていた。その様は初々しい少女のようだった。
「部屋に着いたぞ」
 奥の寝台に向かいながら声をかけるが、ヴィヴィアンはハフハフと熱い吐息をこぼすばかり。俺はガラス細工を手にするような丁寧さで、彼を寝台に横たえる。
 そうして呼吸が楽になるようにシャツのリボンを解くと、汗が浮かんだ首もとにそっと手巾をあてがってやる。するとヴィヴィアンがむずがるように身じろぎし、首筋で珠を結んだ汗がツーッと胸の方に伝っていった。
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