獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 マクシミリアン様はすぐに持ち込んでいた政務資料に目を通しはじめてしまい、これ以降私と目線が合うことはなかった。
 車内には重い空気が漂い、息が詰まった。マクシミリアン様もそんな重たい空気をつぶさに感じ取っているのだろう。表情こそポーカーフェイスを貼り付けて崩さないが、ボフッと投げ出された尻尾が、所在無げな内心を映すように座席の上を行ったり来たりしていた。
 ……くそぅ、いけずな虎柄モフモフめ。いつの日かモフり倒してくれる!
 すぐ脇をモッフモッフと蠢く極上モコフワを横目に、心の中で邪な決意をメラメラと滾らせる。すると尻尾はビックンとひと跳ねして反対側に行ったきり、私の方に戻っては来なかった。
 ……チッ。
 尻尾に行かれてしまった私は、膝上で重ね合わせた両手を握ったり開いたりを繰り返しながら手持無沙汰な時間を過ごした。
 当然車内の空気は重苦しいまま、しばらくしてガブリエル様が乗り込んでくるまで入れ換わることはなかった。
 ――ガタン。
< 142 / 320 >

この作品をシェア

pagetop