獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
「実に面白い。生鮮品から、店内調理の飲食物、果ては陶器や衣類に至るまであらゆる品物が揃っている。多岐に渡る取り扱いだけを見れば港町の様相に似ているが、雑多としたあちらとは違い、ここは整然として清潔感がある。……ふむ、帰国したら我が国にもこのような市を作るとするか」
 ガブリエル様は感心しきりに呟き、足取り軽く市場の奥へと進みだす。
 おお、やったぁ! この反応は、絶対に国交正常化交渉にも追い風だ!
 好感触の滑り出しに嬉々として、隣のマクシミリアン様に目線を向ける。ところが、ぶつかったのは予想に反してポーカーフェイスの横顔で、肩透かしした気分になりかけたその時、彼の背中でバッフバッフと蠢く尻尾が目に飛び込んだ。
 わわわっ! 尻尾がめっちゃ揺れてる!! ……これは内心、相当嬉しいに違いない。
 マクシミリアン様の心の機微をダダ漏れにする虎柄のモフモフ尻尾がなんとも言えず愛おしく、ニマニマと頬の緩みが止まらない。
「なにをモタモタしている? 行くぞ」
「はいっ!」
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