獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
第四章
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……どうしよう。
控室から身支度も半ばのまま飛び出した私は、劇場の裏口を出たところで、ひとり途方に暮れていた。
しかも下こそ自前のズボンを穿いているが、上半身は素肌に直接マントを巻きつけただけの恰好だから、スースーと風が抜けて肌寒い。
借り物のマントをキュッと首もとに引き寄せたら、肌触りのいいジャガード織りのシルク地が、柔らかな温もりを与えてくれた。
一方で、胸には一層寒々しい思いが募る。
先ほどのガブリエル様とのやり取りが、暗雲のように胸に陰りを落としていた。
この陰りがいったいなにに付随するものなのか、話は舞台閉幕の直後まで遡る――。
幕が下りると、劇団員全員が舞台袖に集まり、円陣を組んで舞台の成功を喜び合った。
円陣を解いてすぐ、ドミニクさんが私に歩み寄って来た。
『ヴィヴィアン殿、両陛下は大層お喜びのご様子。君のおかげで大成功だ。感謝してもしきれん』