獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 喉元にグッと込み上げてくるものを堪えながら、精一杯の感謝を口にする。
 気の利いたことはなにひとつ言えなかったけれど、偽らざる思いを率直に伝えた。皆はそれに、柔らかな拍手で応えてくれた。
 目に薄く滲んだ涙の膜がブワリと膨れ、眦から珠を結んでホロリと落ちる。手の甲で乱暴に拭い、最後は劇団員ひとりひとりと握手を交わして健闘を称え合った。
『この後、打ち上げがあるんだがヴィヴィアン殿はどうですかな? 一応陛下からは『次の視察の兼ね合いで先に出発する。後の予定に無理に合流する必要はないから、劇団員らと親睦を深めてこい』との伝言を受けておりますが』
『せっかくですが、僕はマクシミリアン陛下に合流します』
 全員と握手を終えたところでドミニクさんからされた誘いには、首を緩く横に振る。
『承知した。控室に化粧落としなど身支度に必要な物は揃えているから、自由に使ってくれ』
『ありがとうございます』
 控室に戻るや衣装を脱ぎ、晒一枚になって化粧を落とし始めた。無防備な恰好ではあるが、項や首にまで施した舞台化粧を落とすには仕方なかった。
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