獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 ――コンコン。
 そんなメイクオフの最中に外から扉が叩かれて、ビクンと脈が跳ねる。慌てて扉に向かって声を張った。
『す、すみません! まだ支度中ですので――』
 ――ガチャン、――ギィイイィ。
 えっ!? なんと私の言葉途中でドアハンドルが回され、扉が引かれていた。
 許可を待たず入室しようとする不届き者への驚きや怒りより、恐怖が先に立つ。一気にスーッと血の気が引いた。
 っ、いけないっ!! ほとんど裸の恰好にハッとしてタオルを胸元に引き寄せたのと、入室者が長靴の音を響かせて私の脇までやって来たのは、ほとんど同時だった。
『ほぉ。化粧とは顔だけでなく、そうも広範囲に塗っていたんだな』
『ガブリエル様!』
 頭上に響くのんきな声はガブリエル様のそれだった。
『あ、あの。見ての通り僕はまだ身支度の最中でして、このような恰好を晒していては陛下のお目汚しになってしまうかと。よろしかったら、ロビーでお待ちいただけませんか』
< 222 / 320 >

この作品をシェア

pagetop