獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 国交正常化を目指して招待している国賓の無作法を咎め立てできるわけもなく、私はタオルをギュッと胸に押し付けながらこんなふうに申し出るのがやっとだった。
『なに、構わんぞ。俺はもともと王位継承順位は低く、いっときは男所帯の軍に身を置いていたこともある。今さらそなたの全裸を晒されたとて、なんとも思わん』
 ……どうしよう。
 全く出て行く気配を見せないガブリエル様を前に、焦りが深まる。心臓が口から飛び出してきそうなくらいバクバクと鳴っていた。
『それとも、なんだ? 俺にここにいられてはまずい事情でもあるのか?』
 っ!! ガブリエル様が身を乗り出し、鼻先が触れそうな近さに顔を寄せられてヒュッと息が詰まる。
 私を見下ろすヘイゼルの瞳は、まるで捕食者のようだった。獲物をいたぶって追い詰める残酷さの滲むそれだ。
『い、いえ。決してそういうわけでは……』
 カラカラになって張り付く喉から絞り出すように声を出すも、頭の中は真っ白で、満足な言い訳ひとつ浮かんでこない。
 言い淀む私に、ガブリエル様は酷薄に笑みを深めた。
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