獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 次の瞬間、日に焼けた逞しい腕が伸びてきたと思ったら、胸元にあてたタオルを掴まれる。
『やっ!?』
 グンッと強い力で引かれ、止める間もなくタオルは私の手から離れていった。
 遮るものなく、彼の目に胸に晒を巻いただけの体が映る。晒越しとはいえ、こうなれば男性のそれとは違うささやかな膨らみに気づかれないわけもなく、ヘイゼルの双眸が一度見開かれ、次いでスッと細くなった。
『……ほぅ。近習のお仕着せの下に、よもやこんな秘密を隠していようとはな』
 全身が縮みあがり、喉の奥がカラカラになって張り付く。
 頭の中は真っ白で、震える唇からまともな声は結ばれず、細切れの呼吸を繰り返すばかりだった。
『おいおい、そんな顔をするな。俺は別に責めているわけではないぞ。むしろ、こんなに面白いことはない』
 続くガブリエル様の言葉は、私にとってなんの慰めにもなっていない。それどころか、喜色の篭った『面白い』の一語は私の胸に一層の恐怖を呼び起こした。
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