獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 しかし、控室に反響する自分自身の声を耳にして、なんて大それたことをしたのかと青くなった。ただしそれは、ガブリエル様に働いた不敬によって課されるであろう、自身への罰に怯えたからではない。
 アンジュバーン王国との今後の外交交渉を困難にさせてしまったかもしれないこと。それによってマクシミリアン様の立ち位置が難しくなること。思い至ったそれらが、私を激しく動揺させた。
 マクシミリアン様の治世に私が影を落とすことになっては、謝っても謝り切れない。激しい後悔の念に駆られながら俯き、必死に脳内でこれから私が取るべき最善を模索する。
 すると、逡巡する私の頭上でフッと笑む気配がした。
『……やはり、お前は俺の妻になれ。金でも一族の地位でも、お前が望む全てを与えるぞ』
 ハッとして顔を上げるのと、ガブリエル様がヘイゼルの瞳を柔和に細めて告げるのは同時だった。
 彼の発言は想像と違っていた。しかもそれは、ある意味私が想像したどれよりも芳しくない反応でもあった。
『で、ですから……、っ!?』
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