獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 なんと説明したものかと内心で頭を抱えながら口を開きかけたら、ガブリエル様が吐息がかかる近さにズイッと顔を寄せた。
 その眉間にはクッキリと皺が刻まれ、唇は真一文字に結ばれている。彼は隠そうともせず、不機嫌なオーラを全開に漂わせていた。
『なにが不満だ? 王たる俺が求め、他の女たちには睦言でだって口にしたことのない破格の条件を出した。この上、なにを望む?』
 この時、ムッとしたように詰め寄るガブリエル様を前にして、私が覚えたのは不謹慎にも親しみだった。
 その姿は駄々っ子な少年めいて、図らずも母性本能が擽られる。
『ガブリエル様の言葉は、マクシミリアン様への反骨心が言わせていますよね?』
 フワッと肩から力みが抜け、自然体で語り掛けていた。
『……なぜ、そう思う?』
『私の勘ですが、ガブリエル様とマクシミリアン様の関係はライバルなのではないかと。おふたりの根底にあるのは互いの幸福を願う静かな感情ではなく、火花散るような激しいライバル心のように感じるのです』
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