獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが！

　呼び声に驚いて振り返ると、満面の笑みを浮かべたハミル殿下がふわふわの耳を揺らし、モコモコの長い尻尾をなびかせてこちらに向かって一直線に走ってくるではないか。
「ハミル殿下！　こんなところに、どうしたんですか!?」
「そんなのヴィヴィアンのお迎えに来たに決まってるじゃない。あぁぁ～、僕もヴィヴィアンの主演公演、観たかったなぁ」
　驚きに目を丸くする私に、ハミル殿下はさも当然というように微笑んで答えた。
「え？　私が主演を演じたことをご存知なんですか？」
「うん、お母様から『公演で主演俳優にトラブルがあったらしい』って第一報を聞かされて、すごく心配したよ。でも『近習が代役になって舞台の幕が開いた』って続報を聞いた時は、驚きすぎて腰が抜けそうになっちゃった。もちろんお母様だって、絶句してたけどさ」
　ハミル殿下は興奮気味に言い募る。
　それを聞くに、どうやら皇太后様はアンジュバーン王国との国交正常化がかかる一連の視察に相当な関心を持って、その動向を注視しているようだ。