獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが！

　そして逐一視察先の状況を報告させて気を配るのは、やはり、マクシミリアン様の治世を心配する親心なのだろう。
「そうだったんですか。皇太后様は視察先の状況をつぶさに把握しておられるのですね」
「そうだよ。それでお母様が『舞台後の身支度には時間が掛かるから、次の視察には同行しないだろう。ガブリエル陛下の来訪で厳戒態勢の皇都では、帰りの馬車を捕まえるのも一苦労だろうから』って迎えの馬車を用意してくれたんだ」
　まさか、直接面識もない私に、皇太后陛下がわざわざ迎えの馬車を用立ててくださろうとは思ってもみなかった。
「なんて恐れ多い」
「たしかに普段のお母様って、あんまりこの手の気遣いを見せるタイプじゃないんだけどね。きっと僕がヴィヴィアンがいかに魅力的かって、興奮気味に話して聞かせていたからかも！」
　……いったいハミル殿下はどんな誇張を交え、お母上に話をされたのやら。
　胸を張って返され、あまりの居た堪れなさに肩を縮めた。