獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
「それにしたってヴィヴィアンってば、ずいぶんと珍妙な風体じゃない? 格好もだけど、顔の下半分だけ化粧って……あ! もしかして、ほっぺまである被り物をして演じていたの!?」
「まぁ、そんなところです。格好についても少々事情がありまして」
 詳細な状況の説明などできるはずもなく、ハミル殿下の勘違いにのっかった。
「ふぅん」
 ハミル殿下は小さく首を傾げただけで、それ以上追求はしなかった。

「この度は迎えの馬車を出していただき、ありがとうございます」
 ハミル殿下に伴われて向かった馬車で、扉を開いて待ってくれていた男性に礼を伝えた。
「これはご丁寧に、痛み入ります。さぁどうぞ、お乗りくださいませ」
 男性は皇太后様が個人的に抱えている人のようで、これまで皇宮で目にしたことはなかった。同様に、馬車も皇宮所有のものではない。
「お邪魔します」
 御者は別におり、男性も私とハミル殿下と車内に同乗した。
「お使いください」
「ありがとー」
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