獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 乗り込むとすぐに、男性は私たちにおしぼりを差し出した。慣れた様子で受け取るハミル殿下を横目に、私はサービスの良さに内心で舌を巻いた。
「すみません、ありがとうございます」
 恐縮しつつ礼を伝えて受け取ったら、馬車はじきにゆっくりと動き出した。
「今日はさぞ、お疲れでございましょう。こちらのハーブ水でひと息ついてください」
 走りはじめてしばらくすると、男性がポットから飲み物をカップに注いで供してくれた。
「すみません、飲み物まで……」
「どうぞ、遠慮なさらず。スーッとした飲み口でさっぱりしますよ」
「珍しいね。ハーブ水って初めてじゃない?」
 どうやら普段は違う飲み物が出されているようで、ハミル殿下は首を捻って受け取ったカップを見つめていた。
「昨今、巷ではハーブが人気でございます。流行にのったというわけではございませんが、普段と少々趣向を変えてご用意いたしました」
「へぇ、そうなんだ。たしかにスッキリした香りがするね。いただきます!」
 ハミル殿下は興味津々の様子でハーブ水を口にした。
「いただきます」
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