獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 それを横目に、私もクッとカップを傾けた。ひと口含んだだけで香味が口内に広がり、刺激的な香りがスーッと鼻の奥に抜けていく。
 オブラートに包んで言えば清涼感となるのだろうが、かなり刺激的な味わいだ。
 ……正直、あまり好きではなかった。とはいえ、ここは揺れる車内。カップに残して、万が一こぼしては目も当てられない。
 なにより、ご厚意でいただいたものを残す無作法はあり得ない。
 幸運にもカップのサイズは小さめ。私は残るハーブ水をひと息で飲み干した。
「そういえば、ヴィヴィアンはこの短期間でガブリエル陛下にすっかり気に入られちゃったみたいじゃない? 昨夜、お母様がガブリエル陛下とバッタリ出くわして、少しお話したんだって。陛下の口から出るのが君の話題ばかりだと驚いていたよ」
 空いたカップを膝で握ったハミル殿下が、隣の私を見上げて口にする。
「いえ。昨日の夜ならガブリエル様は相当にお酒も入っていましたから、きっとそのせいで少しばかり偏った話題に饒舌だっただけですよ」
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