獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 問いかけながら、実は私自身も不可解な眠気を覚えはじめていた。しかもその眠気は、強引に眠りの世界に引っ張り込んでいくような、通常ではあり得ない不快感を伴った。
「……ん、ヴィヴィアンの手が気持ちいいからかな。なんだか、急に眠くなってきちゃった」
 ハミル殿下はコクコクと舟を漕ぎながら、舌ったらずに答えた。
「お二方とも、皇宮に着いたら起こしますので、どうぞお休みになってください」
「……うん」
 向かいの座席の男性から掛かった声に、ハミル殿下は小さく頷いて、そのまますぐに寝息を立て始める。喜色を映して揺れていた虎耳と尻尾もくたりと脱力し、呼吸に合わせて小さく上下するだけになった。
 私は最後にひと撫でして虎耳と尻尾から手を引くと、ハミル殿下がずり落ちないよう深く肩に凭れさせた。
 そうして少しでも気を抜けば閉じそうになる瞼に力を込めて、必死で視覚からの情報を確保する。同時に、僅かに残る意識を総動員し思考を巡らせた。
 そうすれば、不可解な眠気に対してひとつの疑惑があぶり出される。
 もしかして、ハーブ水……? 
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