獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
「まさか、マクシミリアン様が助けに来てくださるなんて……っ! でも、僕なんかよりマクシミリアン様は!? アンジュバーン王国との交渉決裂で廃位の声が高まっているって、大丈夫なんですか!?」
 間違いなく、現在マクシミリアン様を取り巻く状況はとても厳しい。そんな中で、彼は相当な無理を押してやって来てくれたのだ。
「馬鹿を言え。そんなのは、なんの問題もない! お前が誘拐され、皇宮で指を銜えて待っているなどできるか! お前は俺がこの手で守る!」
 私の勢い勇んだ問いかけをマクシミリアン様はこんなふうに一蹴し、抱き締める腕に力を込めた。
 この時、私は彼の逞しい胸に顔を埋め、その温もりを全身に感じながら、不思議な動悸と息切れに悩んでいた。
 マクシミリアン様が助けにきてくれたのだから、普通なら安堵してホッとひと息ついてもいいところ。なのに胸の鼓動はますます速さを増し、息苦しさも強まるばかり。
 ……ああ。これ以上は、心臓が壊れる……っ!
 謎の症状が進行し、いよいよ限界に近付いたその時――。
 扉に向かって駆けてくる足音が聞こえた。
< 275 / 320 >

この作品をシェア

pagetop