獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 バクバクと心臓が早鐘を打ち、指先から血の気が引いていくのが分かった。
 まさかマクシミリアン様は、是と頷いてしまったりしないよね!? どんなに見つめても、彼の考えが読み取れない。そのことが私をひどく不安にさせた。
 和やかに進んでいた茶会が、しばし静まり返る。
「ふふふっ! やだなぁ、冗談だよ!」
 沈黙を割ったのは他でない、ハミル殿下の笑い声。
「……え、冗談?」
「そうだよ! ふたりして本気にして怖い顔をするんだもん! 僕、ビックリしちゃったよ」
 な、なっ、なんだそりゃ~っっ!!
「もうっ! ハミル殿下ったら、驚いたのはこっちですよ。悪い冗談はやめてください。ほんと、心臓に悪いったらありません」
「ふふっ。ごめんごめん」
 今の質問で私がどんなに心身をすり減らしたと思っているのか。コロコロと無邪気に笑うハミル殿下に、ガックリと肩を落とした。
 ふと、ここまで無言のままのマクシミリアン様に目線を向けるが、俯いていたために彼がどんな表情をしているのかは分からなかった。
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