獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 この日の俺は、ターバンに金襴織りの布を選んでおり、アラベスク模様が刻まれた布の端には長さのある房飾りがついていた。その一部が横から伸びる枝に絡んでいることに、俺は気づいていなかった。
「さて、頭も冷えたことだしそろそろ帰るか」
 ――カサッ。
「あれ!? マクシミリアン様もお散歩ですか!?」
 少し遠くで地面を踏む足音がしたと思ったら、直後ヴィヴィアンの弾んだ声があがる。
「お前も来ていたのか」
 振り返ると、ヴィヴィアンが十メートルほど離れた木陰から飛び出してきて、ニコニコと駆け寄って来る。
 振り返った瞬間、頭部をなにかがサラリと掠めていくような感触を覚えたが、ヴィヴィアンに気を取られていた俺は、突き詰めて考えることをしなかった。
「はいっ! 仕事もひと段落ついて夕食まで間があったので、外の空気を吸い……」
 ヴィヴィアンは満面の笑みで答え、しかし途中で不自然に言葉を途切れさせた。その目には、驚きの色が浮かんでいた。
「どうした?」
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