獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
「あ、いえ。どうやらターバンの房飾りが枝に引っ掛かってしまっていたみたいですね。素敵なターバンが汚れちゃったら大変です。すぐ外しますね!」
 言うが早いかヴィヴィアンは俺のすぐ横の木の下で爪先立ちになり、彼の背丈より高い位置にある枝へと手を伸ばす。
 俺は即座に状況が理解できず、緩慢に彼が腕を伸ばす木の枝に視線を向けた。すると、たしかに俺のターバンの房飾りが枝に絡まっていた。不可解なことに、一端を枝にぶら下げたターバンは長くたなびき、もう一端の房飾りがヒラヒラと風に舞い宙で踊っていた。
 ……っ!! 目にした瞬間、弾かれたように頭に手をやる。
「あれ? 取れないな……うーん、よいしょっ!」
 あてた手指の隙間を髪がサラリと流れる感触に、絶望を覚えた。
「取れたぁ! マクシミリアン様、お待たせしました! 無事に取れましたよ。ザッと見た感じ、汚れたり破れたりもしていないみたいです」
「……お前、見たのか!?」
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