獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
「よし、すっかり綺麗になったね。ハーブの効果が切れる頃にまた来るね!」
 私の足にスリスリと擦り寄って甘えてくる猫たちに別れを告げると、惜しまれつつも廃棄食材置き場を後にした。

 猫たちのブラッシングを終えて皇宮の廊下を進んでいたら、玄関ホールの方向から大きな衣装櫃を抱えてよろよろと歩いてくる小柄な女官の姿を認めた。
 彼女の亜麻色の髪から生えたクリーム色がかった優しい色味をした虎耳と、同色の長い尻尾は見るからにやわらかそうで、思わず目が釘付けになった。
 こんなに立派な耳と尻尾を私が一度見たら忘れるはずはないから、きっと新しく入ったばかりなのだろう。新入りという共通点に親近感が湧き、とびきりキュートな耳と尻尾を持つ彼女への好感がますます募る。
「失礼、レディ。君の細腕にその櫃は、少々荷が重そうだ。手が空いているから、運ぶのを手伝おう」
「ま、まぁ! これはご丁寧に、助かりますわ」
 隣に歩み寄り、櫃を取り上げながら声を掛ければ、女官はいまだ幼さを色濃く残す頬を真っ赤に染め、はにかんだ笑みで答えた。
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