獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 ユリアは「叱られて」の件でふるりと体を震わせ、表情を曇らせる。虎耳が垂れ、尻尾もどことなくしょんぽりしているように感じた。
 私は、まだ見ぬ皇太后様に不信感を募らせた。皇太后様の使用人に対する普段の態度など知るよしもないが、これだけの大きさと重さの櫃をユリアひとりに運ばせて、かつ第三者の介入に目くじらを立てるというのは些か乱暴に思えた。
「なに、それなら皇太后様の居室の前で君に渡せばいいだけのこと。なにも問題ない」
 ユリアの憂慮を取り払うように軽い調子で微笑み、手にした櫃をヒョイと肩に担ぎ上げ颯爽と廊下を歩きだす。
「……ヴィヴィアン様」
 ユリアは少し驚いたように目を見張り、すぐにテテテッと私の後を追って来る。彼女の歩みに合わせてふわふわと揺れる尻尾にも元気が戻り物凄く可愛いかった。
「それにしても、女性の装いというのは大変だ。衣裳だけでこんなに大きな櫃がいっぱいになるのだからな」
 歩きながら、なんの気なしに水を向ける。
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