ぽんこつ魔女は社畜騎士さまの添い寝役をつとめたい
いたれりつくせり……なんだと思います。
とても綺麗な部屋で、一日三回の美味しいごはん付き。ギギと二人ゆっくりと過ごせます。
洋服だって、お城の物をお借りしてます。艶々サラサラの生地。豪華な刺繍。飴色の髪にも毎日櫛を通してますし、鏡の中の私はまるでお姫様のようです。だから、少々夜の寝付きが悪くてもへっちゃらなのです!
ただ、本当に陛下からのお話通り、部屋からほとんど出れません。用を足しに行く時とお風呂に入る時だけ、兵士さん――が、まさかのレスターさんなのですが――いつも付き添ってもらいます。
ある日、レスターさんに聞いてみました。
「あの……私はこんないい待遇を受けていて、いいんですか?」
「あーそれっすか……」
レスターさんはこめかみを掻きます。回答はとても小さな声でした。
「サナさんに心因的負荷をかけないように、ってことらしいですよ?」
「負荷……ですか?」
「脱走されたり、魔法を暴走されないために」
それに、私は「なるほど」と応えるしか出来ませんでした。そうですよね、そうであって然るべきですよね。だって、陛下は私を『管理する』とおっしゃられたのですから。私は城で厳重管理される極悪人。
「サナさん……怒りました?」
「え? どうしてですか?」
私は頑張って口角を上げます。
「レスターさんも大変なお仕事お疲れ様です! 私も処刑の命が下されるまで、謹んであのお部屋で生活させていただきますね!」
「あ、その……」
「そんな困った顔しないでください。私の仕事が少し変わっただけなんですから」
そうです――少し仕事が変わっただけ。
騎士さまを寝かしつけることから、お部屋で大人しくしているだけに、変わっただけなのです……。
静かすぎて退屈だと思う時もありますが……たびたび来客もあります。
「サナ、大事はない?」
「はい。とても良くしてもらってますよ」
三日に一回くらいの頻度で、クロが部屋に遊びに来てくれます。
束の間のティータイム。お湯は頼めば持ってきてくれるので、私が淹れてあげたいのですが……頑なに、クロが毎日淹れてくれます。とても美味しいです。
お土産もいつもたくさん持ってきてくれますし、クロは私を気遣ってくれているんですよね?
「ごめんね……もっと頻繁に来れたらいいんだけど……」
「私のことは気にしないでいいですよ。忙しいんでしょう?」
「うん。もうすぐ条約の改定会議があるからね。僕も皇子として初仕事だから、色々と準備があって」
「それが終わったら……ミュラーに渡るのですか?」
「うん、その予定」
そう言うと、クロはお茶を一口飲みます。
「……まぁ大丈夫だよ。その辺も色々と周りを固めているところだから。サナはこの機会に、ゆっくり休んでて?」
ねっ、と笑うクロの笑顔は、とても可愛いです。だけど……それにきちんと笑い返せているのか、私にはわかりません……。
だけど、クロよりもよくいらっしゃるお客様がいます。
「来たぞ」
「いらっしゃいませ――カミュさま」
毎日です。もうとっくに夕食も終わり、夜も更けています。どんなに時間が遅くなろうとも、カミュさまは毎日いらっしゃるのです。
「まだ寝てなかったのか?」
「眠くありませんから」
ギギはとっくにベッドの隅で丸くなっています。私は椅子に座って本を読んでいました。クロが退屈しのぎにと持ってきてくれたものです。
あ……うっかりです。少々ボンヤリしすぎました。せっかくのお客様を座ってお迎えするのは失礼でした! 慌てて立ち上がろうとすると、カミュさまに肩を押さえられてしまいます。
「そのままで構わん――本を読んでいたのか?」
「はい、クロが持ってきてくれました」
「……恋愛小説?」
貴族の令嬢方に流行っている空想物語らしいです。深層の令嬢が異国の王子様と恋に落ちるお話でした。
カミュさまもパラパラとページを巻くっては、顔をしかめます。
「あいつ……どれだけ用意周到なんだ」
「カミュさま、こういうのお好きなんですか?」
「そう見えるか?」
カミュ様の眉間により一層シワが寄りました。あらら、さすがに野暮な質問すぎましたか……だけど次の瞬間、カミュ様の手袋越しの手が私の頬に触れました。