ぽんこつ魔女は社畜騎士さまの添い寝役をつとめたい
あんたの仕事は俺と添い寝することだろう?
◆ ◆ ◆
クロと別れを済ませて――あっという間に夜になりました。
カミュさまとバタバタして、何やかんや帰ってきたのは日が沈んでから。
久々のお屋敷は、少し埃っぽいです。やはりカミュさま一人では、お屋敷の手入れまで回らなかったのでしょう。それでも「少し待て」と湯殿だけ掃除をしてくれて、私はゆっくりとお花の浮かんだお風呂を満喫します。
ホカホカになって、着るものは桃色のネグリジェ。カミュさまと初めて会った時の服です。あの頃と違い、着方もバッチリ覚えました。やはりスースーして寒いですが……カミュさまに買っていただいたカーディガンがあります。だから湯冷めもしません。
「失礼します」
準備を完璧に整えて、私はカミュさまの私室を訪れました。扉を開けてビックリです! なんと、寝間着姿のカミュさまがお仕事をしていません。猫じゃらしでギギと遊んでいます。
「カミュさま、お仕事は宜しいんですか⁉」
「まさか、あんたにそう言われる日が来るとな」
あ、もちろん無理に働けなんて言いたいわけじゃないんです! 気晴らしやお休みはとても大事だと思います。ギギがそのお役に立てているなんて光栄です。
でも、そんな光景を初めて見たのでビックリしてしまったんです! 本当ですよ⁉
私がそれをどう説明しようかワタワタしていると、カミュさまが小さく笑いました。
「さすがに、今日は俺も働きたくない。疲れた」
「はい。本当にお疲れ様でした」
カミュさまの心労は、計り知れません。そんなカミュさまを労るために、私が出来ること。
「お茶でも淹れましょうか?」
「いや、いい。それよりこっちに来い」
猫じゃらしを置いたカミュさまに、手招きされます。これはあれですかね。寝る前にマッサージしろってことですかね? 当然、肩もみでも何でもやらせていただきます! 昔お母さんに「下手すぎる」と笑われていましたが、十年以上前の話です。今ならきっと心地よい時間を提供出来るような気がします!
そうして、意気揚々とベッドに近付いた時です。
「あんたの一番の仕事は、俺と添い寝をすることだろう?」
ななな……! なんとカミュさまに抱きつかれてしまいました。そしてそのまま視界が反転します。あっという間にベッドに横になってますよ⁉
「だけどあんたの弟に、あれだけのこと言われたんじゃな?」
私の上には、四つん這いになったカミュさまがいらっしゃいます。まだ少し濡れている髪が色っぽく、ランプの温かい灯りに照らされた瞳孔が、いつもより小さく見えました。まるで、今から私を捕食しようとしている獣のよう――だけど、不思議と怖いとは思いませんでした。その妖艶な御姿から目が離せません。ただ、私の心臓が少し早く動くだけ。
「大丈夫だ。痛いことはしない」
「カミュさま……」
カミュさまのお顔が近付いてきます。心臓の音をカミュさまに聞かれているようで、恥ずかしいです……。
「こら、顔を逸らすな」
その優しすぎる説教と共に両手で顔を包まれてしまっては、逃げ場もなく――私は、ゆっくりと目を閉じました。
すると、
「みゃあ」
ギギが鳴きました。ふと見やれば、ベッドの下から呑気に私たちを見上げています。
「みゃあ」
いつもより背筋を伸ばしたギギが、再び鳴きました。
カミュさまが言います。
「その猫のこと……あんたは本当に知らないのか?」
「ギギはギギですよ?」
私は簡潔に答えたつもりでしたが……カミュさまは急に頭を押さえています。どうしたのでしょう、カミュさまのお顔が真っ青です。
もしや、どこか具合が悪いのですか⁉
「カミュさま、お身体の具合が――」
「いや、大丈夫だ。そんなことよりあんた、ずっとそいつを連れていたよな?」
「え……えぇ。ギギはずっと私と一緒ですよ? 起きた時から寝る時まで……カミュさまも一緒に寝ていたじゃないですか」
「あぁ。つまり……ずっと俺らは見られていたというわけか」
「まぁ……そういうことになりますね?」
カミュさまのお顔が急に離れてしまいました。そしてベッドの隅で頭を抱えて、あーでもないこーでもないと項垂れて。
そしてギギに尋ねました。
「これから、他の部屋で休むつもりは?」
その場から全く動く様子のないギギに、カミュさまは再び頭を抱えてしまわれます。
どうしましょう……どうしましょう……。カミュさまは一体何を悩まれているのですか⁉
そうこうしているうちに、夜はどんどん更けていきます。
それでも今日に限って全く寝る気配のないギギは、またまた「みゃあ!」と鳴きました。
《完》