ささやきはピーカンにこだまして
第10章『もしかして』
 昼トレを始めて5日目。
 明日は中間試験という日。
 ノックが終わって。
 気がつくと、シャトルはほとんどがわたしの足元に落ちていた。
「…………」
 自分のうかつさに、がっくりだ。
 そうだよね。
 わたしの目の前にいるのは軟テの元ジュニアチャンプ、実取(みどり) (じゅん)だ。 
「――実取」
「…はい?」
「きみ…もしかして、ここねらってる?」
 となりのコートでは結城先輩と真澄先輩に、小松と二紀(にき)の新コンビが踊らされている。
 シャトルが飛び交い、シューズがきしみ、叱咤激励がアリーナに響き渡る。
 音をなくしたのは、ネットをはさんだわたしと準のあいだだけ。
 (じゅん)は黙って赤くなった。
「ねらってる…よね?」
「ごめんなさい。いつも先輩、集めるの大変そうだから――…」
「…………」
 ほらね。
 わたしは今、準にとってちゃんと先輩だ。
 ただ、頼りない、もの足りない相手であるということを、センパイという言葉で隠したのは、赤くなったからわたしにもわかる。
 下に見られたわけじゃないということも。
 (ば…かね)
 気を使ったことがわたしにバレて恥ずかしい?
 わたしだって恥ずかしいよ。
 気を使われちゃったこと。
 でも、こんなわたしでも先輩と呼んでくれたから、結城先輩や真澄先輩みたいに、ちゃんと先輩として、きみにしてあげなきゃいけないことがある。
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