ささやきはピーカンにこだまして
「姉ちゃんは、ヒーローに恋しちゃうとか……。夢見る乙女じゃないよね。立場とかめんどくさく考えそうだし――。カノジョがいる結城先輩には、本気じゃないでしょ?」
「え。……ぇええええ?」
「いや、そんなに驚かんでも――…」
「…………」
 さすが、二紀(にき)様、恋の上級者。
 数々のうわさは、うそでもないらしい。
 ひとを見る目はある…ね。
 臆病者と言わなかったあたり、姉上級者でもあるけど。
「あんたは――?」
「ん?」
「いないの? 本気になったひと」
 うわさは流れてくるけど、実際に本人から聞いたことはないしな。
「やだねぇ。どうしたの、今日は」
「…………」
 どうしたんだろね。
 たとえ二紀からでも、ひとから聞いた話で本当の(じゅん)のことなんて、わかるわけもないのに。
 こんなことで、わたしはあいつのなにを知ろうっていうんだろう。
「姉ちゃん」
 なによ。
「考えるのはやめな。たいして頭よくないんだからさ」
「な…」
 これよ、これよ、これよ。
 これがたったの11カ月。
 生意気っ。
 お返しはアレイを握った手をつかんでひと押し。
 ゴンッ!
「いっ、たぁぁぁぁぁぁぁ」
 わたしの代わりにおでこにぶち当たってくれるかしこいアレイ。


 出会ってから、2カ月。
 どんどん、どんどん、準にかたむく気持ちを止められない。
 だけど、こわい。
 たとえ11カ月しか誕生日のちがわない年子でも、わたしと二紀には姉弟というくずれない関係がある。
 同じ16歳でも、準は後輩。
「そんなに簡単じゃないよ、そこをくずすのは……」

 わたしがこわいのは…なに?
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