ささやきはピーカンにこだまして
「とにかく! 忙しいから」
「マンガ本を手に持って、そういうこと言う? ぼくのほうこそ忙しいのっ。…はい」
 二紀(にき)は、全力で肩を押しやっているわたしにはおかまいなしに、伸ばした腕でケータイを強引に机の上に置く。
「ちょっと!」
 自慢の最新機種なのに、いいの?
 ケース、ひっかいちゃうよ?
 ファイルのぞくよ?
「ママ―! 話の続き。明日のお弁当はねえ…」
 ふだんの二紀からは考えられない行動に、驚いているあいだに二紀はさっさと階段を駆けおりていってしまった。
「忙しいって……お弁当……」

 中等部から食堂に入れる学校で、わたしはともかく二紀は、めったにお弁当なんか持って行かない子だったから、特別練習のために、お弁当持参がデフォルトになってしまった息子と母は、毎日毎日よくもまぁ…というくらい、おかずのことでやりあっていて。
「や、ママ。まさかそれ入れないよね。明日の弁当に」
 わめいている二紀の声が2階まで聞こえてくる。
 んもう。
 電話、繋がってるんでしょ?
 無責任な。
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