ささやきはピーカンにこだまして
 机の上から仕方なしにケータイを取りあげて。
 耳に当てるまえに聞こえてきた、くすくす笑う声に一瞬で顔が熱くなる。
 (恥ずかしいったらっ)
「ごめんなさい。…代わりました。一路(いちろ)です」
〔……ぇ……〕
 耳に当てたスピーカーが拾う小さな声。
「あ!」
 やだ。わたしったら習慣で。
 思わずケータイのマイクを掌でふさぐけど、もうおそい。
「…………」
 はぁ……。
 こんなふうに、いつもいつも、(じゅん)に境界を超えるパスワードを渡してしまうのはわたし。
〔いまの……なんだか好きだな。ねっ、もう一回言って?〕
 ケータイに当てた耳が熱い。
 今のも聞こえなかったらよかったのに。
「用件はなに?」
〔――ちぇ。いきなり先輩しないでよ〕
「…………」
 ごもっとも。
 あの日のことは、どちらも知らん顔をしたまま。
 なしくずしに、わたしはまた準に《同い年》を許している。
「…なに? 話があるなら早く言いなさい。つまんないこと言ってるなら、切るわよ」
〔はいはい。短気なんだから、もう〕
「…………」
 先輩たちは言った。
 準にとってわたしは友だちの姉で、ほかの先輩たちよりも気が置けない存在だから練習相手になってやれって。
 もしかして準も最初は本当にそう思っていたかもしれない。
 でも、わたしも準も、もう気づいている。
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