ささやきはピーカンにこだまして
「ばかだね。部活になったら鬼になっちゃうよ、先輩なんてみんな」
 むっ、だれ?
「だいたいねぇ、そのひと、怒るとすっげーおっかねぇんだから」
 この声は――…
 椅子からお尻を浮かせて、やっと集めた女の子の集団のうしろをのぞいてみる。

 ひょっこりとびだして見えているのはマヌケな茶色いウェービーヘア。
 いつの間にか160センチの姉より15センチも背が高いマイブラザー。
二紀(にき)! …ったく。それで隠れてるつもりか、おまえは。出てらっしゃい!」
「ほーら。すっごいだろ。やめとけ、やめとけ」
八木(やぎ)くんの……お知り合い?」
 入部してもいいと言ってくれた、おとなしそうな女の子が、二紀を見上げる。
「姉貴」
 ぷ――っ。
 わたしが耳慣れない呼ばれかたに思わず吹きだすと、二紀がビクリとすくんでから、生意気にもわたしを見返してきた。
 女の子の前だとがんばるじゃん。
「なんだよ」
「べっつにィ」
 いつも姉ちゃん、姉ちゃんて、甘えてるくせに。
 これが笑わずにいられるか。
 姉貴?
 オトナぶっちゃって。
 だいたいねぇ、今日のその服だって――まぁ似合ってるけど――姉ちゃん、どお? どお? って何回聞いた?
 その、派手なチェックのアンコンジャケットの下になにを合わせるか。
 あーでもない、こーでもない。
 優柔不断にさんざん悩んだくせに。
「ね。八木」わき腹をつんつん突かれた。
「どなた?」
 ああ。
 忘れてた。小松。
「――弟。二紀。小松くん、初めてだっけ?」
「こんちは、小松先輩」
 んまっ。
 よそゆきの顔がお上手だことね、二紀ちゃん。
「すげー。八木がでっかくなっただけじゃん。びっくりだ」
「きゃははは」「…ですね」
 小松もお嬢ちゃんたちも同じ反応。
 へこむわ。
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