ささやきはピーカンにこだまして
 ひとり、ふたり。
 知っている顔が行きすぎて。
 わたしを、(じゅん)を。
 横目で見ながら階段を上っていく顔に浮かぶニヤニヤ笑い。
「準……」
「…………」
 もう、言いつのる力もないわたしに準が見せるいらだち。
「わたしはいいの。でも、こんなことをして……。あなたが困ったことになるよ、準」
「そうだね」
「そ…」同意しかけた声が喉でつまった。

 どん!

 準の手が拳になって壁を打ったから。
「あなたは堂々と相合傘で来たものね」
「…………っ!」
 胸が張り裂けそうなほど空気を吸いこんだのは、壁から離れた腕が目の横をゆっくりとすぎたとき、そこに見た赤い色のせい。
「なんで? なんで怒鳴らないのさ。うるさいとか、怒鳴りなよ。――あなた、変だよ。――――聞いてるの?」
「…………」
 黙って首を横に振る。
 血が出たよ、準。
 痛くないの?
 痛いでしょ。
 聞きたい。聞けない。
 聞いちゃいけない。
「こっち…見てよ!」
 いやだ。
 きみの顔は見たくない。
 見ちゃいけない。
「迷惑なら、はっきりそう言えば?」
「…………」
 そんなこと…言えないよ。
 それでもきみの声を聞いていたい。
 きみの成長を、ずっと…そばで見守りたい。

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