ささやきはピーカンにこだまして
「降る…とは言ってませんでしたよ」
 首を傾げたのは、(じゅん)
「それが降るんだよ、準」
 二紀(にき)が憂鬱そうに雲の多い空を見上げた。
「うん。八木(やぎ)のくるくる天気予報にハズレはないんだよ、準」
「…………」
 小松にまで力強くうなずかれて。
 それはなんだ、と目で訊いている準に二紀が胸を張る。
「ぼくはバドをはじめてから、汗をかいてもくずれないように、スーパーハード、めっちゃ振ってるから平気だもんね」
「…………」
 ますますわからないという目でチラリとわたしを見るから、わたしはまだケガがうずく手はポケットに押しこんで、心の中で拳をにぎる。
 先輩。
 わたしは先輩だ。
 大丈夫。
「湿気ると、くるんくるんになっちゃうのよね、天パーって」
「ああ、メーメ――…」
 準のつぶやきに小松が大笑い。
「準……、それ言ったら殴られるぞ、八木に」
「ちょっと小松。あんたはわたしをなんだと思ってるの」
「…………鬼?」
 とたんに弾けた笑い声。
 準まで笑ってる。
 ――よかった。
 今は試合に臨む3人のメンタル管理が、わたしにできるたったひとつの仕事だ。
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