ささやきはピーカンにこだまして
「やっぱ、傘、持ってくればよかったかなぁ」
「まだ言ってるの?」
 小松ったら、そんなに心配?
 からかうべきか、大丈夫と安心させるべきか。
 迷っていたら二紀(にき)が小松の腕をツンツン突いた。
「梅雨だもん。ちょっとくらい雨に降られたって、しゃーないじゃん」
 小松はタメ口をきかれたのに、うなずいた。
「そうだな。梅雨だもんな」
「ぼく、姉ちゃんに借りたほうのラケット、ガットのテンション上げて張ってもらってるから。びしびしドライブ決めるよー」
 ちょっとそれ!
 わたしにないしょでなにやってるの?
「知らないで返してもらってたら、即、切れたかもじゃん」
八木(やぎ)ぃ、二紀がそんなうかつだと思うの?」
「だよねぇ。ばかな姉貴でごめんね、こまっちゃん先輩」
「…………」
 うぬぬぬ。
 ガットのテンションについては準の前ではツッコめないわたしを知ってるんじゃないだろな、二紀。
「どっちにしろ、何本か持っておかないとね」
 (じゅん)の声は平静で、わたしのしでかしたことを責めるようでもないけど。
「そうだね。こまっちゃん先輩、今度ラケット見に行こうね」
「うん!」
 小松に言いながら、わたしをちらっと見た二紀はアヤシイ。
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