ささやきはピーカンにこだまして
 この胸の小さなタイコが、おまえはただの女の子だって教えてる。

 キミ ヲ スキナ
 タダノ オンナノコ

 知らない町並みが、小さな台形の窓の外を流れていく。
 窓ガラスに映る(じゅん)の横顔がきれいだ。
 生真面目に前を向いて。
 きっと、これから挑む戦いのことを考えている。
 女の子の自分勝手な気持ちなんて、きみに届くわけ…ないね。
 もう離れない、この腕の温もりだって、きみには届かないでしょ。


 駅前にはほかの学校の群れもいくつかもう集まっていた。
 日曜の道はすいていて、わたしたちが着いたのは集合時間の10分前。
 たぶんそのつもりの待ち合わせ時間だったんだろう。
 タクシーを降りるとすぐに二紀(にき)は小松とフォーメーションの確認を始めた。
 もうじゃまはできない。
 ただの荷物持ちのわたしは、そっとその場を離れるしかなくて、なんとなく踏切のほうに歩き出す。
 高架に慣れたわたしにはめずらしい地面の上の線路。
 どこまでも家々のあいだを延びて、消失点で朝のもやにけぶっている。
 空には雲がもういっぱいで。
 天気の良くない一日のスタートらしく、まだ冷たい空気の中で、さっき(じゅん)にふれていた左の腕だけがジンジンと熱くしびれていた。
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