ささやきはピーカンにこだまして
 こする指には肌色の絆創膏。
 母さんが『あなたはここまでしないと、パパに似てうかつだから』って、しつこく巻いた包帯は玄関を出るとすぐほどいた。
 目立ちたくないし。
 試合に出るみんなに心配されるのはいやだし。
「指……大丈夫、ですか」
「――――うん」
 それは…ふり向かなくてもわかる、(じゅん)の声。
 そっけないわたしの返事に会話はそこでストップ。
 ついてきているなんて気づかなかったけど。
 動揺してるところなんて見せられない。
 
 準は選手だ。
 わたしは準を勝たせたい。

「本当に……?」
 かすれる声で確認されて息を飲むけど。
 大丈夫。
 わたしは先輩。
「うん」
 逃げたりしない。

 カンカンカン

 踏切が鳴り出した。
 光の矢印がチカチカ左を指している。
 新宿からの下り電車だ。
 きっと、うちの部のみんなも乗っているだろう。
「これで全員…集合かな?」
 なぜわたしは、こんなことしか言えないの?
「先輩……」
「ん……?」
 相変わらずわたしは線路を見つめたまま。
 クリーム色の電車はもうすぐそこだ。
「ぼくは最後まで、見ていてほしい」
 ――――えっ?
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