ささやきはピーカンにこだまして
「ねえ」
 (じゅん)が空を見上げたまま言った。
「――ん?」
「入れてってあげようか?」

 ずっきーん

 耳のうしろに生まれる心臓。
 止まれ、止まれと思っても、耳から顔が熱くなる。
 準は、わたしをドギマギさせるのが、本当に上手になった。
 このごろ、後輩から男の子になるタイミングがあんまり一瞬で。
 心の準備ができないよ。
「ありがと。――でも知ってるでしょ? どうせ駅から家まで、走れば5分もかからないし。平気」
 軽く手を振って歩きだすけど。
 わたしの背中に準の声はかからない。
 そうですかも、さよならも。
「…………」
 はぁ…。
 こういう切り替えのへたさが、わたしがキャプテンには向いてないところなんだな。
 わたし今、ただの女の子だ。
 しっかりしろ、八木(やぎ) 一路(いちろ)


「あれ? 待っててくれたんじゃないの?」
 部室につくと、先に出た3人がもう出るところ。
「雨、降りそうだから」「じゃね。メーメ」
 えええええ。
「待ってよ。やだ、待って」
 桃子とふたり?
 それはいやだ。
 お説教の続きがはじまっちゃうよ。
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