ささやきはピーカンにこだまして
「ちゃんと電話して! お母さんに迎えにきてもらうのよ。いいね」
「うん」
「めんどくさがって、走って帰ったりしちゃダメよ」
「うん」
 駅から電車の桃子を改札口で見送りながら、ずっと気にしていたのに。
 1分。2分。
 ――5分。
「なにやってんのよ、アイツは」
 掃除をさぼって、どこかに寄り道?
「もう、知らない。ビニール傘、買って帰ろっ」
 母さんは今日は、うきうきスイミングだしね。
 改札前を行き交うひとたちを右や左によけながら、目だけは準を探してきょろきょろ。
「はぁ…」
 本当にばかだ、わたし。
 見逃したよね?
 アーケードの商店街に行ったんだよ。
 そうだ、そうだ。

 突然の雨でひともうけしたい改札横のキヨスクには、入口そばにビニール傘がどーんと出してある。
「ん? 柄の色がちがうのか。何色にしよう」
「黒にしたらいいじゃない」
 ラックにかがみこんだわたしの目に、雨をはじくオイルドレザーの紺色のデッキシューズ。
「なによぅ。そんなの売ってないもん」
「だから、入れていってあげるって言ったでしょ」
「…………」
 んもう。
 ずっと知らん顔してたくせに。
 わたし、待ってたのに……。
 ひとりでサッサと歩き出すわたしのうしろを準は黙ってついてくる。
 (わたし…)
 待ってた?
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