ささやきはピーカンにこだまして
「待っててくれて、うれしかった」
「…………っ」
 また突然、境界線を飛び越えてくる準。
 わたしは何度、心臓が止まりそうに驚けばいいんだろう。
 顔が…熱い。
「あなたの天気予報、降水量はわからないの?」
「…………」
 また、ふざけて。
「すみませんね、精度が悪くて」
「時間予報ではちょうどぼくらの帰宅時間が、どしゃぶり。ネットの予報、最近は外れないよねぇ」
「なるほど。だからそのデッキシューズなのね」
「――――ぇ」
二紀(にき)もおしゃれにはうるさいけど、きみのは実用的よね。ちゃんとしてて、すごいなーと思う」
「…………」
 ん?
 (じゅん)の気配が消えて。
 振り向くと準が真っ赤な顔でわたしを見ていた。
 え?
「そういう恥ずかしいこと……、気づかれたくなかったな」
 え? え?
「ごめんなさい。わたし無神経で……」
 やだ、どうしよう。
 なにが気にさわった?
 うろたえるわたしより、もっと準はうろたえた。
 なにしろ改札口に入っていくおばさんとぶつかった。
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