ささやきはピーカンにこだまして
「立たないで」
「――――ぇ」
 ノートにうつむく(じゅん)の首筋が赤い。
 熱があるのかな。
 苦しいのかな。
 立ち上がりかけると
「座ってたほうがいいよ」
 また。
「な…に?」
 なんで?
 うつむく準のおでこに、さらっ…さらっ…、髪が落ちる。
 こんなときなのにみとれていたら、かきあげる細い指が途中で止まって、準が顔を上げた。
「…そんなに、見ないでよ」
 やっ、わたしったら。
「ご…めん」
「…………」
「…………」
 わたしには沈黙は気づまりなのに、準の顔はだんだん笑うのをこらえる顔にゆがんできた。
 テーブルに頬杖をついてわたしを見る。
「ねえ……」
「は…い?」
「今日はすごくかわいいんだね」
「…………ゅっ!」
 息を飲んでしまった。
 な…に言って……。
「部活のときはショートパンツなんだし。足を出すのがいやなわけじゃないよね?」
 うわっ。
 そ…ういうのやめて!
 やだ、なに?
「どうしていつもスカートはかないの?」
 顔が熱い。
 まずい。
「こ…れは、あの、ぇと、二紀(にき)が――…」
「二紀が選んでくれたの?」
「う…、うん」
「あいつは本当に、わかってるよなぁ」
< 185 / 200 >

この作品をシェア

pagetop