ささやきはピーカンにこだまして
 なにが?
 え。
 なにが?
「うーん。怒らないってことは。今日はもう少しせまっても、いいのかな?」
「だめっ!」
 や、だ。
 わたしったら。
 (じゅん)は笑ってる。
 わたしは自分の顔が真っ赤だってわかってるのに目がそらせない。
「そのカッコで歩き回られると負けそうだから――。もう少し、このまま押すかな?」
 な…に、言ってるの?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 空気がどんどんうすくなる。
 コチコチ動く壁のアンティーク時計だけが、しばらく部屋の主役になって。
 わたしの耳がとっくん、とっくん、自分の鼓動だけでいっぱいになるころ。
「ねぇ。…だれかが自分を好きだって……、感じること、ある?」
 唐突な質問。
「な…いよ、そんな、の」
 きみは感じるの?
 わたしの気持ち、やっぱりきみにはわかってるんだよ、ね。
「…冷たいんだな」
 そんな。
 ため息つかなくたって……。
 わたしの指はソーサーのふちをもぞもぞ行ったり来たり。
「ぼくは、ずっと、わかると思ってたんだ、そういうの……」
「ふ、うーん」
「でも、自分が好きなひとのことは、わからないみたい」
「……っ……」
 好きなひと?
 (じゅん)の…好きな、ひと。
 わたしの目はソーサーの上を動いている自分の指をぼんやりと追うばかり。
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