ささやきはピーカンにこだまして
「本当になぁ」
 拳をにぎりしめたわたしの横で、くすっと笑ったのは結城先輩。
 指先がわたしの背中に、とんとんとサイン。
 もっとやれって言っている。
 そうですね。
 バドミントンてどんなに過酷なスポーツか。
 ボールと違ってガットに当てただけでは飛ばないシャトルにスピードを与えることがどれほど大変か。
 こんなに観衆がいるまえで、とうとうと語るチャンスだ。
 わたしはコクッとうなずいた。
「そうだったっけ。軟テやってたんだっけ、きみ」
 でも、ごめんね先輩。
 わたしはやさしい先輩とはちがう。
 鬼だから。
 わたしも今、新しい道を発見しちゃったよ。
「そ、そーだよ、姉貴。思い出してくれた? ねっ。――ここはおとなしく帰ってよ。今度のことは力になれなくて悪かったけど、ねっねっ」
「そんなに謝ることないわよ、二紀(にき)
「姉貴ぃ。やだ、なに考えてんの?」
 おや。さすがにするどいわね、弟よ。
 そうよ。
 あんたたちは今、人生の分岐点に立ったのよ。
 まだ気づいてもいないだろうけど。

「わたしとやりましょう。実取(みどり)くん」
「えっ」「八木(やぎ)!」「おねーさんと?」
 えーっと。
 そんなに驚くようなことでもないと思うんだけど。
 令子ちゃんたちは廊下の壁に張りついちゃったし。
 結城先輩は、植えこみから猫が飛び出してきたみたいな顔でわたしを見ている。
 言ってしまったことは意地でもやるわたしをよく知っている二紀(にき)の目は、わたしと実取をおろおろと往復するばかりで。
 冷静なのは実取、あんたとわたしだけね。
< 40 / 200 >

この作品をシェア

pagetop