ささやきはピーカンにこだまして
「ぼくの予定じゃ、お姉さんをテニスに誘うはずだったんだけどなぁ」
「…………っ」
 そのっ!
「オネーサンていうの、やめなさいよ」
 わたしはきみのお姉さんじゃないんだから。
「じゃあ、なんて呼んだらいいのかな? 二紀(にき)八木(やぎ)だし…ねぇ?」
「そうだなぁ……。八木 弟が入ってくるとなると、そこ、大事だな」
 やだ。結城先輩まで。
「このひとは、一路(いちろ)さん」
 二紀がわたしの頭に人指し指をおしつける。
「だれがこのひとよ、こらっ」
「イチロー? 変わってるんだね、ご両親……」
「実取ッ!」
「がははは。また言われた。ち…がーう。い、ち、ろ。一路だよぉ」
 腰を曲げて大笑いしている二紀のおしりを蹴って。
「いいじゃない、イチローで。いい蹴りしてるし。サッカー選手にいなかった? イチローって」
「野球だわっ」
 実取のお尻をねらった足が空ぶり。
「あはは。自分で認めちゃったね、イチローさん」
 うわっ。
 む、か、つ、く!
 走り出した実取を追いかけて、アリーナをほぼ一周してもどると、結城先輩も二紀の隣りで笑いこけていた。
「おまえって……こんなに子どもっぽいやつ、だったっけ?」
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