ささやきはピーカンにこだまして
 軟式テニスのジュニアチャンプにまでなった子が、どうして未経験のバドミントンなんかやってみる気になったんだろう。
 まわりのひとたち、だれも反対しなかったのかな?
 1番の座を捨てちゃえるほど、わたしなんかに負けたのが悔しかったのかなって考えるとつらい。
 だって、あれはズルだったって……。
 あの子はもうちゃんと、わかってるくせに。

 がらにもなく落ちこんでいたら、突然、桃子にウエアの袖をつかまれた。
「あーん。結城先輩たらコーチ姿もすてき。見惚れてしまうぅ」
「やだ、桃。美香キャプテンに怒られるよ、そんなこと言って」
「なによ。そんなことだから、あんたには恋なんてできないのよ。いつまでも《バスの王子様》とかって、乙女なたわごとを言っちゃってさ。少しは現実を見なさいよ。いいじゃないの、略奪愛だって、本物の男子のほうが」

 バスの王子様だって本物だい。
 目の前にいたんだい。

 だいたい略奪って……。
「見てわかんないの? 結城先輩は美香キャプテンにらぶらぶじゃん」
「メーメ。明日のことはだれにもわからないのよ」
「…………」
 なんだろ、この迫力。
 自分だってカレシいない歴……ん? 何年だ?
 桃子って自分のことはじょうずに隠すからな。
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