ささやきはピーカンにこだまして
 だいすけ!
 美香キャプテンが結城先輩を名前で呼ぶのなんか初めて聞いた。
 まずい。
 これは、まずいやつだ。
 退場しよう、桃。

 ぐずる桃子の手を引いて、これ以上聞き耳を立てないように卓球部の陣地すれすれまでフロアを移動。
「ちょっと、メーメ聞いた? ダイスケだって、美香キャプテンたら」
「…………」
 うん。
 聞こえちゃったものはしかたないけどさ。
 ショックだったけどさ。
「い…いじゃない、別に。あのふたり、つきあってんだから」
「なにそれ。醒めてるわねぇ。自分だって結城先輩のこと好きなくせに」
「……う……」
 好きだけどっ。
 好きだけど、ちがうから。
「ほら。真面目にやろ。わたしらには関係ないでしょ」
「ちぇっ。メーメってば恋バナになると臆病なんだから」
「臆病とか、ちがうし! はい、はじめまーす」
 いつものように桃子がサポートで、わたしから腹筋。
「だって……。だってさ……。結城先輩と。う。美香…キャプテンの。ことはっ。うう。公認。なんだ。からっ」
 おなかに力を入れて起き上がるたびに、自分に納得させちゃうわたしは、臆病なの?
 足を押さえているだけの桃子は、まだ先輩たちのほうを気にしている。
「公認てさ、こわいよね」
 え?
「なに。をっ。言ってん。の?」
 腹筋しながらしゃべれるようになった自分に、ちょっと感動。
 わたしも鍛えられてきたな。
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